バイデンの"失言”

 バイデンの"失言”なるものが、しばしばジャーナリズムをにぎわせている。

 ロシアのウクライナ侵攻直前に、バイデンは、仮に武力行使があっても、アメリカは武力介入しないと発言した。この発言は、アメリカが武力介入すればアメリカとロシアという核大国同士の戦争となり、最後は核戦争になりかねないので、それを防ぐ趣旨だったと説明された。しかし、プーチンウクライナに実際に侵攻するまえにこの発言がなされたことは、プーチンに対して侵攻してもアメリカは介入しないという言質を与え、プーチンウクライナに侵攻しても大丈夫だと背中を押すような言動とも言えた。

 また、侵攻後、バイデンはプーチンを激しく非難し、戦争犯罪人として処罰されるべきだとか、政権の座にとどまってはいけないとか発言した。このような発言を聞けば、プーチンは容易に和解の席につくことができず、いわば、逃げ場を失うことになり、戦争はおのずと長期化してしまう。

 これらの言動に加えて、アメリカ高官から「ロシアの弱体化」を戦争目的に掲げる発言が出たりして、仲介に乗り出していたトルコからは、「NATO加盟国のうちには、早期の停戦を望んでいない国があるようだ」という発言まで飛び出した。これを裏付けるかのように、今度はイギリスの高官から、「戦争は数年続く」という発言まで出ている。

 そして、ウクライナ情勢の台湾問題への波及が一部で取り沙汰される中、韓国・日本を訪問したバイデンは、記者から、中国が台湾に武力侵攻した場合、アメリカは介入するかと問いかけられて、再三にわたり、これを肯定した。これは、介入するかしないかを意図的にあいまいにし、台湾に対しては独立宣言を抑止し、中国に対しては武力介入を抑止するという従来のアメリカの戦略からの逸脱である。

 このように、バイデンの“失言”なるものがしばしばジャーナリズムをにぎわすのであるが、これは、本当にバイデンが「ボケて」いるための失言なのだろうか。それとも、意図的な発言なのだろうか。