ウクライナ戦争の原因

 2月下旬のウクライナ戦争開始から3か月近くが経つ。

 ウクライナ国境周辺にロシア軍が集結しているという報道に接するようになってからも、専門家の間でも戦争が始まることには懐疑的な見方が少なからずあった。ウクライナNATOに加盟するとしても今すぐというわけではないし、東部2州をロシアに併合しても、そのことによりウクライナが紛争地帯を抱えている状態が解消されれば、却ってウクライナNATO加入要件を満たしてしまうことになるので,逆効果だとも言われた。

 実際にはロシア軍が侵攻して戦争が始まったわけだが、では、プーチンは、どうして侵攻に踏み切ったのか。

 侵攻にあたっての演説で、プーチンは、スターリンナチス・ドイツに融和的な態度を取ったために却って損害を拡大させたことを示唆して、早期の侵攻を正当化した。

 また、対ナチス戦勝集会の演説で、プーチンは、今回の戦争を、NATO東方拡大に対する先制的自衛と位置付けた。

 これらの演説では、それ以上の具体的事情が明らかにされているわけではないが、アメリカのミアシャイマーは、改選前の時期に欧米なりウクライナなりにロシアを刺激する実質NATO化の動きがあったとして、戦争を招いた実質的責任はアメリカにあるとしている。

 戦争が始まってから、メディア報道はロシア批判一色に塗りつぶされ、プーチンが戦争に踏み切った理由は、十分に究明されていない。プーチンの演説での説明も、国際法では先制的自衛は認められていないといった規範論的説明が目立つだけで、プーチンが戦争決断に至った実相については、依然として明らかにされていない。欧米のメディアはNATOの東方拡大という問題に、余り触れてほしくないのだろうと思ってしまう。

 こうした中で、NATO東方拡大を推進したビル・クリントンが、NATO東方拡大が今回の戦争の原因になったと批判されているが、ロシアが自由民主主義の国家に生まれ変わるならよし、そうでなく、ナショナリズムに傾斜し、かつてのロシア帝国のような帝国主義に回帰する可能性も考えられたので、自分は今でもNATOの東方拡大は正しかったと発言し、話題を呼んでいる。この発言は、今回の戦争が、アメリカを中心とする「リベラルな覇権」戦略とこれに対抗するロシアのナショナリズムとの衝突が原因で発生したことを明らかにしているように思われる。