アメリカ寸描


7月下旬に私用で約1週間,アメリカのロスアンジェルス近郊とその南の都市サンディエゴを訪れる機会があった。わずかな期間の滞在だったが,その際の感想を述べておきたい。

現在の日本では,アメリカに関する情報はふんだんにあって,実際に行ってみると,日本で聞いていたことはこのことかと,符合することは多々あった。例えば,アメリカ人はフレンドリーで真面目,表裏がなく外向的。車社会で車がなければ生活できない。本当に広くて豊かな国,等々。

その中で,話には聞いていたものの,実際に見聞するとやはり驚かされたことを,二点ほど述べてみる。

一つ目は,信じられないほどデブが多いこと。小錦級の超肥満が,男女を問わず,街中をのし歩いていた。出合ったアメリカ人(大部分は中産階級の白人)の大部分は,日本の基準だと肥満と見做されるだろう。この原因は,間違いなく,ハンバーガー,ピザ,ポテトチップス,コーラ等々に代表されるアメリカ式食生活である。あんな食事をしていて太らないはずがないというのが,数日暮らしていただけでも実感できた。
消費資本主義の行き着く果てという印象を受けた。

二つ目は,国外情報の少なさである。私は外国へ行くときは決まって宿泊先のテレビをつけてその国のテレビ番組を見る。その国のお国柄をそれとなく知りたいと思うからだが,多くの国(中国を含む)では,外国人客が泊まるようなホテルでは,自国の番組だけでなく,宿泊客の母国局の衛星放送も流している。従って,日本人であれば,多くの国ではNHKの海外向け放送を視聴することができる。NHK以外にも,イギリスのBBC,フランス国営放送,アメリカのCNNなどはよく放映されている。このため,どの国へ行っても,テレビをつけているだけで,そのときに世界で起こっているニュースを視聴することができる。繰り返すが,中国もこの点は基本的に同じである。

これに対して,自国の放送中心で余りないし全く外国局の放送を流していなかったのが日本(東京の外国大使館が立ち並んでいる外国人がよく利用するホテルや,やはり外国人が多く利用している京都の観光ホテルに泊まったときの印象)とドイツで,この両国は他の国に比べて,情報の取扱が閉鎖的で自国中心的かつナショナリスティックな印象を受けた。それでも,この両国であっても,自国の国内放送の中で外国のニュースも報道しているので,その国のバイアスを通してではあっても,海外のことが全くわからないということはない。

ところが,今回,アメリカの宿泊先で見たテレビ番組は,アメリカの放送だけで外国局の放送が流れていない上に,アメリカの放送では国外のニュースをほとんどと言っていいほど流していなかった。有名なCNNのニュース番組でも,国内のニュースが殆どを占めており,国外のニュースはごく僅かだった。これは新聞も同じで,アメリカの新聞は各地方毎の地方紙が主体だが,これらの地方紙が掲載する記事はその地方のニュースが主体で,国外のニュースはやはりほとんど載せていない。

その結果,アメリカにいた1週間ほどの間,アメリカ以外の世界で何が起こっているのか,全くといっていいほど分らなかった。こんな経験は初めてである。まるで,鎖国時代の日本にいるか,旧ソ連時代のロシアにいるような気分だった。

この点をアメリカ人に聞いてみると,海外ニュースを聞きたければ,例えば,ケーブルテレビでBBCを契約すればよいし,インターネットでニュースを拾えばよいのだから,何も不自由することはないということらしいのだが,そういう風に自主的にニュースを拾うだけの知識と時間を持っている人はともかく,ただ受身でテレビや新聞を見ているだけの人は,今,世界で何が起こっているか,殆ど知らないのだろうと思われた。

それやこれやを考えてみると,アメリカという国は,巨大な「村」という気がする。
この点は,国際政治でアメリカというファクターを考えるときに,頭にとどめておくべき点であろう。