検察と政治

 検察を政治と区別されるところの司法ないし行政と捉える場合,では,その区別されるところの政治とは一体,どういう領域なのかということが問題となる。
 一般には,政治とは国家ないし共同体の意思決定,権力意思の発動,権力闘争,政策決定などの作用を指すと考えられ,近代的統治制度の下では立法府の作用を指すものと観念され,こうして政治によって決定された権力意思=法律を忠実に執行するのが司法ないし行政という執行作用だとされる。

 しかし,よく知られているとおり,現代の行政国家の下では,国家の政策立案,法案作成等々はつとに官僚,とりわけ高級官僚の手に握られており,国会はこうして官僚たちによって作られた法案の事後審査機関に成り下がっている傾向が見られる。ここでは,行政部に属する官僚も政治領域のプレイヤー,それもしばしば最も重要なプレイヤーであって,官僚たちは決して,政治家が一方的に制定した法律に唯々諾々と従ってこれを執行するだけの存在ではない。

 そして,このことは,法務省を事実上支配している検察官についても同じことが言えるのであって,検察官の,それも法務省で勤務しているいわゆる法務官僚は霞ヶ関の高級官僚のれっきとしたメンバーである。検察は法務省の管轄する刑法,民法,商法などのいわゆる基本法の制定改廃に関与し,いわゆる判検交流によって密接な関係を持つ裁判所と連携して基本法に則った法秩序維持という国家の根本作用を司っている。

 この「法と秩序」の維持という作用は,検察が警察,裁判所と連携して司る固有の任務であり,権力作用の最も基本的な作用であって,それは,同時に極めて政治的な作用である。およそ,政治作用の根本にあるのは,他者の意思に反しても己の意思を貫徹するという強制の要素である。その強制の作用を担うのが,警察,検察,裁判所という,俗に曖昧に「司法権」と呼ばれることも多い機関なのである。尤も,このうち,固有の意味で司法権と言えるのは裁判所だけであって,検察・警察は行政権に属するものであり,とりわけ警察は行政の中の行政である。そして,ここで行政権に属するというのは,上に述べたところから明らかなとおり,決して政治作用と無縁というのではなく,それどころか,極めて政治的な動きをする機関ということなのである。

 今日でも,警察は一般刑事犯罪の摘発にあたる刑事警察のほかに,政治的反体制派を監視・弾圧することを主たる任務とする公安警察があり,むしろ公安警察の方が本来の警察である。日本の公安警察は,日本共産党,新左翼過激派,市民団体,労働組合などを日常的な監視下に置いており,必要と考えるときには,弾圧を行うことをためらわない。最近では,麻生首相宅への「見学ツアー」を実施しようとした市民団体の構成員を,いわゆる「転び公妨」によって逮捕したのが適例である。
 こうした公安警察に対応する形で,検察にも公安部が設置されており,更に,破防法を管轄する法務省の外局として公安調査庁が置かれている。