左翼の検察贔屓

 今回の地検特捜部による民主党首脳を標的とした捜査に際して,驚かされたことの一つが,左翼の中に検察捜査の肩を持ち,鳩山,小沢を批判する者の多いことだった。それも,捜査の対象になっているが故の,公式論的批判というに止まらず,また,政局的思惑として述べるのでもなく,本当に鳩山,小沢の「金権ぶり」を問題視し,検察がメスを入れて真相を解明して欲しいと望んでいるような立場を取る者が多い。更に進んでは,検察批判の声を「陰謀論」と揶揄し,嘲笑する者さえ現れるに至っている。一体,これは何なのか。

 こうした左翼の人達の検察贔屓の背景をなしている認識の構造はどうなっているのだろうか。正直,私には理解を絶するのだが,あれこれ推測するに,以下のような認識によって支えられているのではなかろうか。

1.田中角栄逮捕以来,日本の政局では,悪徳保守政治家の金権政治とこれに対する検察,野党,マスコミ,国民の連合軍の対立が繰り返されてきており,今回もその延長にあると考えている。

2.資本主義下では,政治の腐敗は必然的に金権政治の色彩を帯び,小沢はその代表だと考えている。

3.民主党もその本質は保守党であり,今回の事態は支配階級内部の内輪もめだと,観客気分で見ている。

 他にもあるかもしれないが,こうした人達の検察,マスコミに対するナイーブなまでの信頼感には,時に,唖然とさせられるものがある。あたかも時計が70〜80年代で止まってしまっているかのようだ。

 しかし,こうした理解の下,検察の捜査が功を奏すれば,民主党政権は危機に陥る。その結果,辺野古基地問題はもとより,外国人参政権夫婦別姓障害者自立支援法廃止,派遣労働の見直し,選択議定書批准,取調可視化等々の,とにもかくにも動き出した一連の流れもせき止められてしまうだろう。挙句の果ては,自民党時代に逆戻りしかねない。上のような意見に組している左翼の人達には,こうしたことに思いが至らないのだろうか。

 時代が変動期を迎えるときには,さまざまの未経験な出来事が起り,一見,かつてと同じ出来事が再現されているように見えても,その意味合いを変じていることが起る。そして,時代の変動を捉えきれず,従来の惰性で物事を見ていると,途方もなく誤った判断に足をすくわれかねない。

 また,こういう時代には,従来の意見配置に従った対峙構図とは異なった,かつての敵が味方で,味方が敵に分かれるということがありうる。ここでは,鈴木宗男佐藤優堀江貴文が戸田ひさよし,安田好弘と同じ陣営に立ち,日本共産党やショーヴィニズム反対の「純正」左翼の人がネット右翼自民党とともに検察応援団を買って出るという,倒錯した事態が起る。時代の流れは,思う以上に烈しく動いているように思われる。