尖閣諸島沖中国漁船拿捕事件について・その5


 中国外交部姜瑜報道官の声明では、日本の巡視船が中国の漁船と衝突したとあり、中国漁船が日本の巡視船に衝突したとする日本側報道と食い違っている。
 しかし、この中国側声明はその論拠が明らかでなく、漁船が巡視船に衝突してきたとする日本側主張に対して、とりあえず中国側の主張を対置してみせたという以上の意味を持っているとは思えない。

 これに対して、日本側報道は、中国漁船と「よなくに」「みずき」との双方の衝突箇所を特定しており、これは漁船と巡視船の破損状態に照らし合わせることによって容易に客観的に確定できる性質のものである。この衝突箇所についての日本側の報道内容は概ね一致しており、基本的に信頼してよいと考える。

 問題は、中国漁船と日本の巡視船との衝突は、どういう経緯によって発生したか、ということである。

 日本側で流通している情報によれば、本件は中国漁船に近づいた日本巡視船に対して、漁船がいきなり衝突してきたかのように言われている。
 しかし、逃走しようとしている漁船が急に向きを変えて巡視船に衝突してきたというのは、通常では考えにくい行動である。
 そのことから逆に、中国漁船は実は中国の工作船で、意図的に挑発行為に及んだのだというような説も、まことしやかに主張されている。しかし、中国漁船が実は工作船であったということを示す証拠があったというような話は出ておらず、こうした説は根拠を欠いた憶測以上のものではない。

 日本側報道によっても、日本側は逃走しようとする漁船を、巡視船2隻で領海外まで追いまわし、停船を命じ、最後は強制的に停船させていることが読みとれる。こうした経過に照らせば、漁船と巡視船との「衝突」は、少なくとも「みずき」との衝突については、「みずき」が漁船を停船させようと試みた過程で生じたものと解するべきであろう。