尖閣諸島沖中国漁船拿捕事件について・その6


 現在、この事件の事実関係については、漁船が衝突してきたとする日本側と巡視船が衝突してきたとする中国側の双方の主張が出されているだけで、その主張を裏付ける証拠は、ほとんど出されていない。従って、観客としては、本当の事実関係はどうだったのかという点について、何ら根拠のある判断を下しえない。

 日本側は、中国漁船の側から衝突してきたことを証するビデオ画像があると言ってきた。しかし、このビデオそのものは、今日に至るも公開されていない。これでは、そのビデオ画像が、果たして日本側の言うように、中国漁船から衝突してきたことを証するに足りるものかどうかも、判断できない。それどころか、それほど日本側に有利な証拠だというのなら、どうして公開に踏み切らないのかと、徒に疑念が増しつつあるのが現状であろう。

 こうした、肝心の事実関係が明確にされないままで、あれこれこの事件の「真相」を論評しても、砂上の楼閣にしかならない。

 このビデオに加えて、双方の船の破損箇所、破損態様、双方の船の乗員の証言を含めれば、本件の事実関係を知りうることに、さして困難があるとは思われない。これだけの波紋を投げかけた事件である。双方とも、船員達から十分な聞き取りを行い、事実関係の概要はかなり正確に把握していると考えるのが自然であろう。それが、どうして曖昧なままにされるのか。

 事実関係が明らかになることが、双方にとって望ましくないような事情でもあるのだろうか?