尖閣諸島沖中国漁船拿捕事件について・その7

事件直後の9月9日に発せられた中国外交部姜瑜報道官声明とこれに伴う記者からの質問に対する回答で、中国はこの事件に対する中国側の見解と立場を非常に明確に発している。

>関連の質問に対し、姜瑜報道官は「事態のエスカレートを避けるため、日本側
>は直ちに無条件で人員と漁船を解放するべきだ」と強調。

>この事件が中日関係に及ぼす影響について、姜瑜報道官は「領土、主権をめぐ
>る争いは極めて敏感で、対応を誤れば、中日関係の大局に深刻な影響をもたら
>す。日本側はこれをしっかり認識すべき」と表明した。

>また、中日両国の間で釣魚島の主権争いが存在するのは客観的な事実で、事実
>を尊重した上で話し合いを通じ問題を適切に解決するとの考えを示した。

 ここで、中国側は、日本が漁船と乗員を解放すれば、事態のエスカレートは避けられること、領土問題は極めて敏感で対応を誤れば日中関係に深刻な影響を及ぼしかねないのに日本側はこのことに対する認識が甘いように見られること、日中間には領土問題が存在しないという態度を取って話し合いを拒むならば適切な解決はできないと考えていること、などを、非常に率直に述べている。この中国側からのサインを日本側が正確に読みとっていれば、今回のような事態の悪化は避けられたであろう。

 しかし、当時の日本側は、この中国側からのサインを正確に読みとっていたようには思えなかった。
 当時、民主党代表戦の最中で、政治家もマスコミも、この事件に対して十分な注意が行き渡っていなかったように見えた。
 政府発表やマスコミの論調は、この事件は純然たる国内の司法問題で、粛々と捜査手続を進めればよく、中国は文句はつけても、それ以上に踏み込んでくることはないだろうという、根拠のない楽観論に支配されていた。

 そして、その結果はといえば、戦後で例を見ないような外交的敗北を喫したのである。
 もし、この結果がそう見えず、中国も深手を負ったとか、尖閣諸島にも日米安保が適用されるというアメリカ側見解を引出せたので、日本の方が勝利したなどというように思えるのであれば、それは、先の大戦での日本敗北後に、これを信じられずに日本は戦争に勝ったと主張し続けた、ブラジル移民社会の中の「勝ち組」と同じ心理状態に陥っているとしか、言い様がない。