革命の政治力学

 革命が成就した瞬間から,革命主体は反革命抵抗勢力に取り囲まれることになる。
 彼が占拠した砦は,政治・経済・社会・文化等々の複合体からなる旧秩序の一部分に過ぎず,残りの複合体の殆どは依然として旧勢力の支配するところだからである。
 この包囲する抵抗勢力は,自らの既得権が根柢から覆されることに対して,なりふり構わない抵抗を仕掛けてくる。この抵抗を打ち砕き,反革命勢力を一掃しなければ,革命は容易に転覆される。かくして,革命の経過は,革命成就後の革命勢力と反革命勢力との,激しい政治闘争に彩られる。

 この革命的内戦の政治過程は,お互いに食うか食われるかの争いとなるから,革命の主体は革命的内戦を強力な政治指導によって勝利できるだけのストロングマンを必要とし,又,自陣営の団結を守り,敵への内通者を排除することが不可欠となる。

 こうして,革命は集権化・独裁化と内部粛清の血なまぐさい過程に陥りやすい政治力学を内包している。

 昨年のわが国の政権交代は,もとより革命ではなく,議会制の内部での政権交代にすぎない。
 しかし,それが半世紀にわたる自民党,官僚,経済界等々の旧勢力複合体に対する「否」の審判であっただけに,民主党への政権交代は,一種「革命的」な色彩を帯びた。
 この後に起った政治過程は,流血にこそ至らないものの,上に述べた革命の政治力学類似の経過を辿った。

 現在,民主党の直面しているのは,妥協を重ねれば折角の政権交代の意義が台無しになり,反対に,強行突破を図れば,継続する軋轢と民主党の集権化に繋がりかねないという,危うい過程である。

 「友愛」を掲げる鳩山首相と,「剛腕」を謳われる小沢幹事長が,今後,党内外に対してどのような対応を行なってゆくか,政権交代の意義を守りつつ,革命的過程につきものの軋轢,硬直化を如何に避けてゆけるか,民主党政権の手腕が問われる正念場であろう。