満身創痍の日本

 今,日本は東京オリンピック開催に沸いているが,足元を見れば,この国は満身創痍である。

 経済は持ち直してはきたものの,依然として,「失われた20年」の傷跡を引きずっている。財政は逼迫し,その穴埋めのための消費税増税の時期を窺っている。生活保護の基準は引き下げられ,格差と貧困は蔓延している。地方は疲弊し,東京だけが「世界都市」として,日本の富を吸い寄せている。「アベノミクス」は順調な滑り出しをしているかに見えるが,それが本物かどうかを見極めるには,まだ日が足らない。

 震災・津波原発被害からの復興は,遅々として進んでいない。陸には津波で運ばれてきた大型船が未だに撤去されずにいる。仮設住宅での生活は恒久化しつつある。被災地は,今は一面の原っぱである。原発事故は収束するどころか,たまり続ける汚染水が海洋に漏れ出て,世界的な懸念を呼んでいる。

 政権交代可能な二大政党制の樹立を旗印に行われた政治改革は,民主党の政権奪取によりその成果を挙げたかに見えたが,その後の民主党攻撃とこれに耐えきれなかった民主党の自己崩壊によって,今や,戦後をとおして例を見ない,事実上の野党喪失の事態に至っている。議会制民主主義は崩壊状態である。自民党に代表される既成勢力だけが政治的発言力を持ち,討論と利害調整による政治は,麻痺している。

 その民主党時代に悪化した中国・韓国との外交関係は,改善の兆しを見せず,日本は国際関係においても危機的状態にある。「暗愚の宰相」野田首相によって引き起こされた戦後最大の外交的失態(東郷和彦氏)は,安倍内閣になっても冷却状態が続き,今や,アメリカのオバマ政権の日本をも対象に含めた「抑止」によって,辛うじてこれ以上の悪化に至ることが食い止められている。

 こうして,現在の日本は,三重四重の半身不随状態に陥っている。事態は,民主党政権時代以前の,「失われた20年」よりも,はるかに悪い状態にある。

 そして,日本の人々は,庶民もエリートも,現実を直視することを避け,ひたすら幻想に縋って,閉塞状態からの脱出口を見出そうとしているように見える。アベノミクス然り,震災・津波原発被害の忘却然り,反中反韓ナショナリズム然り,憲法改正談義然り,橋下人気然り,である。いずれも実体が伴わず,レミングの群れのように,右往左往している。言うまでもなく,こうした雰囲気は,ファシズム前夜と非常によく似ている。

 こうした時代に,なによりも必要な感覚は,リアリズムである。夢を見ることは望ましいことだが,それが現実逃避を伴うものであれば,目を避けた現実から復讐される。そして,今,立場の左右を問わず,一番欠けているのが,この現実を直視するという営みだと思う。