ニューヨーク滞在記(5)

 滞在当初、遠回りされたり、割高のチップを吹っ掛けられたりと、タクシーで散々な目にあったため、ニューヨーク滞在中は、極力、地下鉄で移動するようにしていた。7日間使い放題のカードを手に入れ、このカードを使って、地下鉄でニューヨークのあちこちに行っていた。

 ニューヨークの地下鉄といえば、以前は、車内で犯罪が横行し、車体は落書きで汚され、とても乗れたものではないという印象があった。

 今はそのようなことはなく、車体は綺麗で、犯罪に怯えるということもなかった。

 では、地下鉄は快適だったかといえば、色々と首をかしげることが多かった。

 まず、ニューヨークの地下鉄は、エレベーターやエスカレーターが殆どなく(ごく一部の駅にはあった)、地上と駅の間を階段を昇り降りしなければならなかった。お世辞にもバリアフリーとは言えず、老人が介護を受けながら手すりをつかんでゆっくり昇り降りしているのをしばしば見かけた。

 ニューヨークは全体に公衆用のトイレが少ないが、地下鉄の駅にもトイレはほぼないといってよかった。地下鉄で犯罪が多発していた時代に、トイレの中がレイプ等の犯罪の場所になったため、トイレを閉鎖してしまったらしい。

 7日間使い放題のカードは、日本のようにカードを機械に入れたり、ワンタッチで押し付けたりする方式ではなく、溝状の読み取り機にカードを通して、ゲートを開ける方式だったが、これをうまく通さないとゲートが開いてくれない。私は生来、不器用なせいか、うまくゆく方が少なくて、しばしば周囲の乗客に助けてもらって入場できたが(ちなみに、この時に限らず、街中で地図を片手にうろうろしていたりしていると、しばしば何か困っているのかと声をかけてくれた。こういう旅行者への心配りは、世界の他の町でも経験したが、ニューヨークは特に親切だったように思う)、私以外でも、特に年配者はうまくカードを使いこなせず、ひっかかったり、ゲートをくぐって入ろうとして転倒したりといった光景を再三見かけた。

 車内は、椅子はスチール製で、固く、滑りやすく、乗り心地がいいとは言えない。つり革はなく、縦横の手すりにつかまっていないと、運転が結構荒いので、よろめいてしまう。

 地下鉄は縦横に走っていて、同じ線路に何本もの路線が走っているので、行先表示に注意していないと乗り間違える。それで乗るはずの番号の電車があと0分で到着と表示が出るや否や、その電車の表示が消えてしまい、しかも、電車は来ない。

 地下鉄は各駅停車の他に急行が走っているが、各駅停車と確かめて乗ったはずの電車が途中で急行に早変わりして目的地のはるか遠くまで連れてゆかれたりする。

 結局、地下鉄の場合、金銭面で予想外の出費を強いられることはなかったものの、色々な意味での乗り心地に問題が多く、とても日本の地下鉄のように便利に使いこなせる交通機関ではなかった。